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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1560号 判決

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人小田原市大窪地区農業委員会が昭和二四年七月三〇日別紙目録記載の農地について定めた買収計画を取消す。被控訴人神奈川県農業委員会が同年一二月一四日控訴人の右買収計画に対する訴願を棄却した裁決を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「いわゆる遡及買収は事後立法により農地所有者に不利益を与えるもので、憲法第二九条第一項同第三九条の精神に違反するものとして効力を有せず、これに基く本件買収計画も亦無効である。仮にそうでないとしても、本件買収計画は次の事由によつても違法である。(一)訴外平岡喜三郎が耕作していた土地は、服部高次郎方で子息が応召のため手不足になつたので、人手がふえたら何時でも返還するという条件で賃借小作していたものであるところ、昭和二〇年八月二五日控訴人は帰還し分家資産として高次郎より贈与を受け、県知事の認可を得て翌二一年二月一六日所有権移転登記を了した後、右約旨に基いて返還を受けたものである。右事実は契約に基く賃借権の消滅を前提とする任意の返還であり、仮に一方的な契約解除である場合でも、かような事情の下においては、自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する)第六条の二第二項第一号にいう適法且つ正当な契約解除というべきものであるから、買収は許されないものである。(二)訴外服部熊次郎は、控訴人の父服部高次郎の遠縁の者であつて、杣師を本業とし生活難のため、控訴人等が分家するまで一時的救済策として、昭和一〇年頃副業として本件土地を耕作せしめたものであるが、同訴外人は齢七〇歳を超え、且農業に経験がないので、高次郎において馬耕を施し播種まで行つてやる状況であつて、独立して耕作の業務に従事するものでなく、ただこれによる収入をもつて家計を補つていたに過ぎない。自創法第六条の二にいう「小作地に就き耕作の業務を営んでいた小作農」とは、かようなものを指称せず、又かような立場に在る者に対してまでも、土地所有者の意思に反して強制的に当該土地を買収して所有権の異動を生ぜしめることは、自創法第一条の「土地の農業上の利用を増進し、農業生産力を増進する」趣旨に反するばかりでなく、かような事実関係に基いて遡及買収を請求することは信義に反するものとして、違法の買収計画である。(三)仮に本件遡及買収計画は全部違法でないとしても、本件買収地は服部高次郎が戦時中一家の農業労働に従事すべき三名の子が応召(いずれも昭和二〇年八月一五日前の召集にかかる)により相次で家庭より離れ、手不足のため耕作に支障を生ずるに至つたので、その所有の自作農地の一部を訴外服部豊三外二名に一時小作せしめたもので、これ等の者が帰還するときは小作地を返還する約旨で右訴外人が耕作しておつたものである。ところが自創法第五条第六号に基く同法施行令第七条第二号にいわゆる「昭和二〇年八月一五日以前の召集」とは当該土地の所有者自身が召集された場合のみに限らず、本件のような場合をも含むものと解するを妥当とするから、右第五条第六号の「自作農が疾病その他命令で定める事由によつて自から耕作の業務を営むことのできないため一時賃貸した農地」に該当し、近く自作するものと認め且つその自作を相当と認める農地として買収から除外せらるべきものであり、被控訴人大窪地区農業委員会が遡及買収計画を定めなかつたことは正当であつて、これに反する被控訴人神奈川県農業委員会の指示照会並びにこれに基く本件買収計画は法令の適用を誤つたもので、同様の趣旨による訴願の裁決も亦違法である。尤も自創法第五条第六号但書によれば、当該自作農の所有する農地面積が同法第三条第一項第三号の面積又は同条第三項の規定により当該区域につき定められた同号の面積に代るべき面積を超えるときは、その面積を超えない農地に対してのみ買収除外の規定を適用すべき制限はあるが、右農地面積の計算については、当該所有者の自作農地のみを対象とし、小作地を含まないことは、同法第三条第一項第三号の農地保有面積が小作地及び自作地を併せた計算によるもので、この限度を超えない農地は自作地であると小作地であるとを問わず、又特定の事由の存すると否とにかかわらず、すべて買収しない規定であることとの対照上特に自作地について買収欠格事由を定めた上記規定が自作地小作地を併せて同一基準面積によるものとすることは、何等の意義がないことによつても明らかである。従つて本件における服部高次郎の昭和二〇年一一月二三日現在の所有農地として被控訴人の認める自作地二町三反五畝一三歩中上記規定による神奈川県の基準面積二町歩を超える三反五畝一三歩を除くその余の買収は違法処分として取消を免れないのみならず、本件土地は分家資産としての実質的所有者たる出征者の全所有地で、保有量以内のものである。」と述べた外は、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(立証省略)。

三、理  由

控訴人が、被控訴人等のなした行政処分の取消を求める本訴請求は、次の事項を附加える外、原判決の記載と同一の理由で、理由がないものと認めるから、右記載を引用して、これを認容し得ないものと判断する。当審における証人服部高次郎の証言及控訴人本人の供述中右の認定に反する部分は採用しない。

一、控訴人は、「本件土地中訴外平岡喜三郎が耕作していた土地は、服部高次郎方で子息が応召のため手不足になつたので、人手がふえたら何時でも返還するという条件で賃借小作していたものであるところ、昭和二〇年八月二五日控訴人は帰還し、分家資産として高次郎より贈与を受け、県知事の認可を得て翌昭和二一年二月一六日所有権移転登記を了した後、右約旨に基いて返還を受けたものである。右の事実は自創法第六条の二第二項第一号にいわゆる適法且正当な契約解除に該当するから、右土地の買収は許されないものである。」と主張する。而して平岡喜三郎が右主張の如き約旨で土地を賃借小作していたところ、昭和二一年五月頃服部高次郎の請求により約旨に基いて一旦右土地を高次郎に返還し、もつて賃貸借の合意解除をしたことは原審認定のとおりであるが、凡そ農地の一時賃貸借と雖も、これを解除(合意解除をも含む)するには、当時の農地調整法第九条によつて地方長官の許可を要すべきものであるのに、(最高裁判所昭和二五年(オ)第四〇七号、昭和二九年二月一八日第一小法廷判決参照)右許可を得たことについては何等の主張も立証もないから、前記解除は適法なものということができず、その効力を生じないものであるから、自創法第六条の二第二項第一号に該当するものとして買収が許されないとの主張は理由がない。

二、当審証人服部高次郎の証言(第一、二回)によれば、訴外服部熊次郎は、控訴人の父服部高次郎の遠縁に当る者で、木材業等をしていたことを認めることができるけれども、右熊次郎が服部高次郎から本件農地を賃借したのは、高次郎の子たる控訴人等が分家するまでという条件で賃借した旨の右証人の証言は、原審証人服部熊次郎の証言に照らしてこれを信用することができないし、熊次郎が独立して耕作の業務に従事しているものでないとの控訴人の主張事実はこれを認めるに足る証拠がない。しからば、服部熊次郎が自創法第六条の二にいう「小作地に就き耕作の業務を営んでいた小作農」にはあたらないとの控訴人の主張は理由がない。又服部熊次郎に小作地の遡及買収の請求をみとめることが信義に反するものとなすべき資料は一つもない。

三、控訴人は本件農地は自創法第五条第六号に規定する農地に該当するから、買収から除外せらるべきものである旨縷々主張するけれども、高次郎方で近く自作し且その自作を相当であると認める資料のないものとして、本件農地が右法条の要件にあたらないものであることは、原審認定のとおりであつて、控訴人の申請により当審において更に尋問した各証人の証言並びに控訴人本人の供述によつても右認定をくつがえすことができないから、右主張はこれを採用しがたい。

四、控訴人は更に、本件のようないわゆる遡及買収は事後立法によつて農地所有者に不利益を与えるものであるから、憲法第二九条第一項第三九条の精神に違反し無効であると主張するから考えるに、本件農地の買収は自創法第六条の二の規定に基くものであることは前段認定のとおりである。同法第六条の二の規定は昭和二二年一二月二六日から施行せられたのであるが、この規定は昭和二一年一二月二九日から施行せられた最初の自創法附則第二項を承継した内容を持つている。而してこれ等の規定はその施行以前である昭和二〇年一一月二三日に遡つてその日の事実状態によつて買収計画を定めるものとしている点で通常の立法とは甚だ趣を異にしている。このような立法をした所以は、農地買収が行われることになれば農地所有者の意思に反して、強制的に、農地が買収せられ、農地所有者に不利益を来すであろうから、これを脱れようとする各種の不当な行為が行われることは予想せられるところである。そこでかような農地改革を阻害する行為を防ぎ、農地改革の目的を達する必要からして、いわゆる遡及買収の制度を定め、農地改革の計画が閣議で決定せられた昭和二〇年一一月二二日の翌日以降農地についてなされた行為のうち、農地改革の目的を害する不当なものは、これを無視して同年同月二三日現在の事実に基き農地買収をすることとしたのである。右基準日以後の行為はすべてこれを無視するというのでなく、その内でも相当と認めらるるものについては、これを認める考慮を払つたことは自創法第六条の二第二項からも判るのである。思うに法律がその施行日以前の事実関係を基準にして権利関係を定めることは異例のことではあるが、今次の自創法による農地買収の場合には、前記のような必要に基きこの程度の遡及を許すことは公共の福祉を目的とする農地改革実現のため必要であつたと認めざるを得ない。すなわち遡及買収の制度は公共の福祉のために農地所有権に制限を加えるものと認むべく、これを憲法に違反するものとは断定できない。なお憲法第三九条は刑罰法規に遡及効を与えることを禁止した規定で、本件の遡及買収の問題には関係がない。従つて前記主張もこれを採用することができない。

以上の理由により、本件控訴はその理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)

(目録省略)

原審判決の主文、事実および理由

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

第一、当事者の申立

原告訴訟代理人は被告大窪地区農業委員会(当時小田原地区農地委員会以下地区委員会と略称)が昭和二四年七月三日別紙目録記載の農地について定めた買収計画を取消す、被告神奈川県農業委員会(当時神奈川県農地委員会以下県委員会と略称)が同年一二月一四日原告の右買収計画に対する訴願を棄却した裁決を取消す。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、

被告地区委員会訴訟代理人兼被告県委員会指定代理人(以下被告等代理人と略称)は主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張

(一) 原告の請求原因

1、原告は昭和二〇年八月二五日父にあたる訴外服部高次郎から分家資産として別紙目録記載の農地を贈与せられて引渡をうけ、昭和二一年二月七日県知事の認可を得た上同年二月一六日所有権取得登記をした。

2、訴外服部豊三、平山喜三郎、服部熊次郎の三名は、昭和二三年六月自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第六条の二により右農地の小作人として被告地区委員会に対し昭和二〇年一一月二三日現在の事実に基づいて農地の買収計画を定めるべきことを請求したため、同委員会は昭和二四年七月三〇日に至り買収計画を定めた。これに対し原告は同年八月八日異議の申立をしたが、同月一六日棄却されたので、更に被告県委員会に対し訴願の申立をしたが同年一二月一四日右訴願も棄却された。

3、右買収計画及びこれを維持する訴願の裁決は次の理由により違法である。

(イ) 前記買収計画は本件農地が昭和二〇年一一月二三日当時前記服部高次郎の所有に属するものとし、同人の保有限度を超える小作地であることを前提として定められたが、この農地は前記のように既に同年八月二五日原告の所有となつており、かつ原告は父である同人とは別世帯の在村地主であるから、同人の保有限度を超える小作地として買収せられるいわれはない。

(ロ) 前記小作人三名は条件附の一時小作であつた。すなわち訴外服部高次郎は自己の子である原告等が成長分家の暁は、これに分与する目的でその時期迄との条件を附して本件農地を小作させていたものであるが、かような小作人等は自創法第六条の二による請求権をもたないものと解すべきであるから、同人等の請求によつて買収計画を定めたのは不法である。

(ハ) もし、本件農地が買収せらるべきものとすると、買収の結果、原告は小田原市早川に畑八反九畝九歩を有するに過ぎなくなるが、

請求人服部豊三は別に畑五反田一反八畝を耕作しているところへ本件の田別紙目録記載三、四〇二筆合計一反九畝三歩を、請求人平岡喜三郎は目録別に畑八反八畝田一反六畝を耕作しているところへ本件田別紙目録記載一、二のうち合計二反五歩を、請求人服部熊次郎は別に畑八反二畝田八畝二〇歩を耕作しているところへ本件の田別紙目録一、二のうち残りの合計二反一畝一一歩を、

各所有して耕作することになり、原告と比べて不均衡を生じ、原告の生活状態が小作人等のそれより著しく悪くなるから自創法第六条の二第二項第四号により右農地は買収することができないものである。

(ニ) 仮りに以上が全て理由がないとしても、小作人等の請求は同条同項第二号にいう信義に反するものであり、被告地区委員会もこれを認めて買収計画決定前昭和二三年六月二一日買収をしないことに決定し、同決定日確定した。請求人等は右決定があつた後被告県委員会に対し自創法第六条の三により指示を請求したので、同委員会は同年九月一日指令第九号をもつて地区委員会に対し買収計画を定めるべきことを指示した。被告地区委員会は、同年一〇月一日再議の結果再び買収計画を樹立しない旨決議したが、同年一二月一五日県委員会より前記買収指示につき照会をしてきたので、これを上級官庁による強制的命令と誤解し買収の可否を決すべき権限がないものとして前記買収計画を定めるに至つたのである。しかし、小作人の買収計画樹立の請求が信義に反する場合小作地の買収は許されないのみならず被告地区委員会は一旦買収をしない旨決定した以上、この決定に対し請求人等が異議申立訴願等の方法により取消を求め、その取消があつて後買収計画が定められるならば格別かような方法によらないで又新しい別の請求がなされた訳でもないのに既に処分のすんだ請求に対し、先の処分と矛盾する買収計画を定めるのは不法である。

(二) 被告等の答弁

1、原告主張の事実中、原告が昭和二一年二月七日訴外服部高次郎から本件農地を譲受けるについて県知事の認可をうけ同月一六日所有権取得登記をしたこと、原告主張のように訴外服部豊三外二名の小作人が遡及買収の請求をし、被告地区委員会が買収計画を定め、これに対し原告から異議、次いで訴願の申立をしたが、いづれも棄却されたこと、被告地区委員会が先に再度に亘り買収をしない旨の決定をし、被告県委員会が前記小作人等の請求により指示をし、次いで照会をしたが、前記買収計画はその後に樹てられたものであること、原告は父の服部高次郎と別世帯の在村地主であること買収計画が、本件農地を右高次郎の所有に属するものとし同人の保有限度を超える小作地であることを前提にたてられたものであることは、いづれも認めるがその他は否認する。

2、服部豊三外二名の小作する本件農地は、昭和二〇年一一月二三日当時は前記服部高次郎の所有であつて、同人はその外住所地で自作の田四反二三歩内畦畔五畝一一歩、畑一町九反四畝二〇歩内畦畔三反五畝二七歩外畦畔一歩と小作の田二反六畝一五歩畑八畝歩を所有しており、神奈川県における地主の保有限度は二町歩であるから、本件農地は自創法第三条第一項第三号に則り買収せらるべきものであつて、これを認めた買収計画や訴願の裁決に違法はない。

3、小作人のうち訴外服部豊三は、その先代服部惣吉が昭和九年服部高次郎より別紙目録記載三、四の田二筆を賃借したのを引続き小作していたもの、

訴外服部熊次郎は約二〇年前から、服部高次郎より同目録記載一の田のうち一反四畝二一歩内畦畔一〇歩、同二の田のうち六畝二〇歩内畦畔一〇歩を賃借小作してきたもの、

訴外平岡喜三郎は昭和一九年服部高次郎より同目録記載の一、二の田のうち服部熊次郎の賃借分を除いた部分を賃借してから引続いて小作していたもの、

で、何れも賃借期限の定めがなかつたから条件附の一時小作ではない。

4、被告地区委員会では原告主張のように再度に亘り買収しない旨の決議をしたが、その後再審議を行つた結果、前決議の誤りをさとり、小作人等の請求を容れて買収計画を定めたのであつて、先に買収しない旨の決定をしても後にこれを改めて買収の決議をすることが妨げられるわけはないから同委員会のたてた買収計画に違法はない。

(三) 原告の被告等の主張に対する答弁

訴外服部高次郎が住所地で本件の農地を除き被告等主張のような自作並びに小作の農地を所有していたことは認める(立証省略)。

三、理由

一、原告が昭和二一年二月七日父である訴外服部高次郎から別紙目録記載の本件農地の譲渡をうけるについて県知事の認可をうけ、同月一六日所有権取得登記をしたこと、訴外服部豊三外二名の小作人が右農地につき被告地区委員会に対し自創法第六条の二により遡及買収の請求をし、同委員会が昭和二四年七月三〇日買収計画を定めたこと、これに対し原告から、その主張のように異議の申立をし、これが棄却されたので被告県委員会に対し訴願をしたがこれまた棄却の裁決をうけたこと、右買収計画が本件農地を昭和二〇年一一月二三日当時訴外服部高次郎の所有に属するものとしてたてられたものであつて、被告地区委員会はこれに先だち原告主張のように再度に亘り買収しない旨の決議をしたが、被告県委員会の指示次いで照会があつてその後買収することと決定したものであること、原告が父高次郎と別世帯の在村の地主であることは、いづれも当事者間に争がない。

二、原告訴訟代理人は右農地は原告において昭和二〇年八月二五日父高次郎から分家資産として贈与せられ引渡をうけたものであるから、同年一一月二三日当時高次郎の所有であることを前提として買収されるいわれはないと争うが、この点に関する証人服部高次郎、原告本人の供述(何れも第二回)は信用することが困難である。すなわち、同証人の証言や原告本人の供述(何れも第一回)によると、同人が本件農地を原告に分家資産として贈与することとなつたのは、昭和二一年一月より後のことであり、同年二月七日前記のように県知事の認可をうけて贈与の効力が発生し、同月一六日その登記をしたものと認めるのを相当とするから右主張は失当である。

三、原告訴訟代理人は訴外服部豊三外二名の小作人は条件附の一時小作であつたから自創法第六条の二により遡及買収を請求する権利がないというので調べると、証人服部豊三の証言によれば、本件農地のうち、別紙目録記載三、四の田二筆は同人の父惣吉が昭和九年六月前記服部高次郎から期限を定めず賃借したもので惣吉の死亡後豊吉が受継いで引続き小作している事実、証人服部熊次郎の証言と本件口頭弁論の全趣旨によれば、別紙目録記載の一及び二の田のうち同人の耕作している部分約二反は昭和八、九年頃より引続き服部高次郎から賃借小作していたもので賃借期限の定めがなかつた事実が認められるので、これ等の小作がいわゆる条件附一時の小作でないことは明かである。

これに反し証人山口信義、服部高次郎、平岡喜三郎の各証言によると、別紙目録記載一及び二の田のうち平岡喜三郎の耕作している部分は、昭和一九年服部高次郎方で子息が応召のため手不足になつたので、人手が殖えたら何時でも返還をするという条件で賃貸小作をしたものであることが認められるが、更に右各証言によると、昭和二一年五月頃服部高次郎から返還の請求があつたので、平岡喜三郎は約旨に基づき一旦返還したところ、服部高次郎方ではこれを自作せず、又もや訴外服部幸玄に耕作させた。そこで平岡より交渉の末同年一一月より再び平岡が賃借小作することとなりその後引続いて耕作している事実及び原告は同年八月二三日復員した事実を認めることができる。これ等の事実によると、右平岡は昭和二〇年一一月二三日当時一時の小作をしていたものというべきであるが、これによつて原告訴訟代理人が主張するように同人が自創法第六条の二により農地委員会に遡及買収の請求をする権利をもたないものとすることはできない。

何となれば、

(イ) 自創法第五条第六号によると一時小作の農地でも同号の要件にあたらないものは同法第三条の買収をするものであること明かであつて、かような農地について小作人が同法第六条の二に定める遡及買収の請求をする権利をもつていることは、疑の余地はない。

(ロ) そこで右平岡の小作地が第五条第六号にあたるか否かをみると、前認定の事実によれば、右小作地は服部高次郎がその後一旦返還をうけておきながら、当時原告も復員帰還しているのに自作をすることなく再び他に賃貸し小作に出したところをみると、昭和二〇年一一月二三日当時を基準に考えて、服部高次郎方で近く自作をする筈のものであつたということが困難だし、又高次郎の自作を相当と認める資料もないから、この小作地は前記五条六号の要件にあたらないものと認めるべきである。すると、右(イ)に述べたところによつて小作人平岡は一時小作をしていたものであるけれども小作地の買収請求をする権利をもつているものとしなくてはならない。

四、原告訴訟代理人は本件農地が買収せられると、原告の農地が少いのに小作人の農地が大きくなつて均衡を失し、原告の生活状態が小作人に比し著しく悪くなるから、自創法第六条の二第二項第四号により買収ができないと主張する。

併し同号の規定は昭和二〇年一一月二三日以後において当該小作地について耕作の業務を営むものの生活状態が元の小作人の生活状態に較べて著しく悪くなる場合のことを定めているのであつて、本件口頭弁論の全趣旨によれば原告は右農地について同日以後耕作の業務を営んでいないと認められるし、又前記服部豊三外二名の小作人と較べ原告の生活状態が著しく悪くなるという事実を認めるに足る証拠がないから、本件に同号の規定を適用する余地はない。

五、原告訴訟代理人は更に小作人等の遡及買収の請求が信義に反し、被告地区委員会もこれを認めて一旦買収をしない旨の決定をし右決定は確定したのにその後被告県委員会の指示や照会によりこれを上級官庁による強制的命令と誤解して買収計画をたてたのは違法であると主張する。

けれども、

(イ) 本件農地のうち、一時小作の農地であつたものがあるにもせよ買収をすべきものであることは前記のとおりであるから、かような小作地の買収請求であることを根拠とし直ちに信義に反する請求であるということができないことは勿論である。その外本件の請求を信義に反するものと認めるべき資料はない。

(ロ) 次に被告地区委員会が一旦買収をしない旨の決議をしたことは前記のとおりであるが、これに対し異議、訴願等の申立がなかつたからといつてこれを確定したものとし、取消すことができないものとする理由はない。蓋し、一般に行政処分に法律上の瑕疵があれば権限のある官庁において取消すことができるのが原則であつて、本件にこの原則の例外を認めなければならない根拠を見出すことができないからである。もつとも、甲第一号証及び証人府川長保の証言並びに本件弁論の全趣旨によると、被告地区委員会が買収をしない決議を改めて買収計画を定めるようになつたのは、昭和二三年六月二一日の当初の決議の後、同年九月一日被告県委員会から本件農地について遡及買収をすべき旨の指示があり、これに対し同年一〇月一日再び買収計画を樹立しない旨の決議をしたが、更に同年一二月一五日県委員会から右指示に関する照会がきたので、この照会をもつて前記指示を強制する命令的性質を有するものと解し、これに従わないと上級官庁がその権限を発動して買収計画を樹立させるに至るであろうと考え、先の決議に瑕疵があるかないかを検討することなく、無批判的に県委員会の指示に従い買収計画を定めた事実を認められる。しかし、本件農地を買収すべきでないとした被告地区委員会の決議は、甲第二号証によると、自創法第六条の二第二項によつたものとされていて、同項第一号及び第三号にあたらないことは明かであるから第二号及び第四号によつたものと認めるべきであるが、その採るべきでないこと上乗説示のとおりである。すると同決議には瑕疵があるとしなければならないのであつて、同委員会がこれを意識しなかつたにもせよ、右決議は取消を相当とするものである。

従つて同委員会がこれを改めて買収計画を定めたのは結局正当でこれを許すべきでないとする原告訴訟代理人の主張は採用の価値がない。

六、してみると、右買収計画及びこれを維持した訴願棄却の裁決の取消を求める本訴請求は理由がないものとみるべきであるから棄却し、訴訟費用は民訴法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

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